メカ屋の危機

  私が高校を出て最初の仕事は機械製図工だった。設計したのはメカ部品である。どんなものを設計していたかと言えば、レコードプレーヤーをイメージしてほしい。スタートボタンじゃなくてレバーを引くと、ピックアップアームを持ち上げてレコード盤の外側までもって行って針をレコード盤に降ろし、演奏が終わるとそれをアームレストに戻すメカニズムをいかに部品数を少なく作り上げるかということだ。 1960年代はモーターも電子部品も高価だったから、なるべく部品数を少なくすることが重要だった。そういうことは面白かったし、機構のセンスとか部品点数の多少で設計者の腕前が分った。 だが世の中はどんどんと進み、電子部品でも機械部品でも安くなってしまった。それで必要な動きをさせるのに部品数を少なくするのを競うということがなくなり、モーターをいくつも使うようになり、やがてはひとつの動きにはひとつのモーターということが多くなった。 更には昔は検出器から出力までメカニカルに行っていたのを、電子回路で演算や論理判断をするようになった。あげくには光センサーなんて使うってそりゃ邪道だよ! レコードプレーヤーも末期にはモーターやプランジャがいくつもついていて、メカニカルな面白さがなくなった。そしてあっというまにCDになりミニディスクになり・・もっとも私はレコードプレーヤーが存在した時代に転業してしまったけど。 現代は世の中のものすべてがそうなってしまった。たとえば自動車だって内燃機関の代わりに燃料電池、電気モーターとなった。…

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